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2010年10月 1日 (金)

死の悲しみを癒してくれるもの 2 最後の集金

亡くなられた患者さんのお宅へ、亡くなって2週間くらい経って少し落ち着いた頃に伺うことが時々あります。診療費の自己負担分は毎月まとめて口座引き落としにしていただいているのですが、患者さん名義の口座は亡くなって死亡届が役所に出されると凍結されて引き落とせなくなるので、最後の月の診療費だけは直接頂きに伺うことになります。今は診療に比較的余裕があるので、診療の合間に伺っています。昨年私がお世話になっていた たんぽぽクリニックにならって、これを「最後の集金」と呼んでいます。

先週も、2週間ほど前に亡くなられたNさんのお宅へ行ってきました。
亡くなられた後に奥さんからわざわざお礼の品を頂いていたので、私とナースMEGUMIとでお供えのお花の鉢を持参しました。

癌の末期とはいえ、まだあと数週間は自宅療養できるだろうと思われたNさんですが、人工肛門のトラブルで緊急入院したあと、もともとあった呼吸不全が急に悪化して亡くなられたのでした。
我々が関わったのは在宅療養のため退院されてからの数日間。金曜の夜から週末にかけ腹痛で調子が悪いときに何度か往診に伺っていました。

  
部屋に通していただいてから、「少しは落ち着かれましたか?」というナースMEGUMIからの問いかけには、
「いえいえ、まだバタバタして訳がわからないんです・・・」 と言われていました。
遺影に線香を上げて手を合わせた後、しばらく話を伺いました。

「退院した次の日くらいに、もうだめかもしれんなぁ・・・とぽつりと言っていました。
入院する前の晩には、ちょうど娘(注:看護師さん)も帰ってきて
久しぶりに親子3人で川の字になって寝たんですよ。
・・・・
入院した日も、本当は一晩そばについていてあげたかったんですけど
個室じゃなかったのでなかなかそれもできにくくて・・・
無理にでも泊まっておけば良かったかなと今になって思います。
次の日病院に行ったらICUに入っていて様子がすっかり変わっていて・・・
そのまま逝ってしまいました。・・・・」

部屋の片隅に、御主人が使っていたネクタイがたくさん掛けてあったのでそのことに触れると、

「いつも「ネクタイをぴしっとしめると気分が引き締まる」といって、キュッとしめてゆくのが好きだったんです。主人が自分で買ったり、私が買ってきたり・・・ダーバンのが良く滑って締まるからいいといって、たくさんあるんですよ。」

初診の時に、Nさんに仕事の話をしたとき、「さぁー、なんと言っても私は事務屋ですから・・・」
とちょっと照れたように言われていたのを思い出します。事務職としての誇りを持ってかっちりした仕事をされていた人柄が偲ばれました。

位牌の横には会社の事務所の写真が飾ってあり、Tさんの机の上には花が添えられていました。
「今でもこうやって飾ってくれているらしいんです。
 会社の皆さんみんな、それこそ若い二十歳くらいの女の子までが悲しんで泣いてくれていて、
 厳しいけれど面倒見の良い人でしたから、いろいろしてあげていたんでしょう。」
会社でも良いと思うことは遠慮せずに必ず言うような、いつも直球を投げる人でした。
おかげでよく喧嘩もしましたけど、主人には本当にこれまでいろいろな事を教えられて引っ張ってきてもらいました。
・・・・・
短い間でしたけど、先生方のことは絶対忘れません。本当にありがとうございました。
主人のことを時々思い出しながら、これから強く生きていきます・・・」

最後に言われていた言葉が強く印象に残りました。
家族の方から頂く感謝の言葉が、仕事に対する我々自身の心の糧にもなります。

私と看護師で訪問することにどれだけの意味があるのかわかりませんが、
残された家族の方と患者さんのことを思い出しながらお話しすることによって
家族の方の気持ちが少しでも整理されて これからの生活に新たな決意を持ってもらえるとしたら、
実はこれが グリーフ・ケア というものかもしれないと思ったりします。
病院だと、患者さんが亡くなったら家族の方は悲しみに暮れる暇もなく、慌ただしい中で葬儀社の車が迎えに来て病院を後に家へ帰っていかれます。
病院のナースがゆっくりとお話を聞いたりできる余裕なんてとてもないと思いますし、
勤務中に病院を離れて亡くなった患者さんのお宅に訪問するわけにもいかないでしょうから、病院でのグリーフ・ケアには限界があるのかもしれません。

ももたろうでは これからも ”グリーフ・ケア”などという、
看護師が何かしてあげる的な仰々しい呼び方をしないで、
集金のついでに故人の思い出話に花を咲かせる程度の気楽な、それでいて心の通うつきあいを大事にしてゆきたいと思います。
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